【漢方・中医学の基本】身体のエネルギー源、『気』のはたらき

東洋医学を知るうえで、気血津液についての理解を深めることは欠かせません。

気血津液とは、人体を構成する基本的な物質です。五臓六腑やからだの器官、組織、経絡が生理的な活動を行うためのエネルギーになります。

『気』は目に見ることはできませんが、血や津液の生成や運行にも関わる基礎的な働きを持っているため最も重要です。しかし西洋医学にはない概念ですし、数値化したり物質化したりできないため、東洋医学が理解されにくい理由の1つとしてもあげられます。

今回はその大切な『気』についての働きを詳しく解説します。

4種類の『気』について

気には原気(げんき)、宗気(そうき)、営気(えいき)、衛気(えき)の4種類があります。

このうち両親より受け継いだ先天の精と、飲食物から自分のからだの中で作り出した後天の精から原気が作られます。また、呼吸から得られる天の陽気と飲食物から得られる地の陰気から、宗気、営気、衛気と血や津液が作られます。

原気と宗気はそれぞれ一定の場所で働き、営気と衛気は経絡を介してからだの内外をめぐって活動します。

これらの気を総称して真気(しんき;正気)ともいいます。

原気(元気)

原気とはまさしく元気のことで、食欲や性欲、生きようとする欲求をもたらす生命活動の原動力となるもののことをいいます。

原気は両親から受け継いだ先天の精が変化し生成したものです。生まれたときから持っている身体のエネルギーで、両親の年齢や生活パターンなどによりその量と質は人それぞれ異なります。生まれた時は満タン状態ですが日々の生活で少しずつ使用され、後天的な飲食によって都度補われています。

原気は丹田(たんでん)というヘソ下のツボに集まり、臓腑の三焦の働きによって経絡を介して全身をめぐり、からだに活力を与えます。原気が充実していると下腹部にハリがあり五臓も力強く働くので、身体にパワーが漲り病気にもかかりにくくなります。

宗気

宗気とは、肺で交わった後天の精と天の陽気が、胸にあるツボの膻中(だんちゅう)に集まった気のことをいいます。

宗気は心と肺に関係が深く、心臓の拍動を正確にしっかり行わせ、呼吸や発声を力強くさせる活動を支えています。

営気(栄気)

営気とは、後天の精から得られる陰性の気のことをいいます。

中国伝統医学の古典『黄帝内経 霊枢 営気篇』には、“営気は飲食物から身体にとっての宝を得ることができる、水穀の精微といわれる飲食物から得られるエネルギーを脾胃の運化作用によって肺に運び、体内を流れて臓腑を栄養して、体表を滋養する、そして経絡を常にめぐり続ける”とあります。

営気は津液を血に変化させて、血とともに脈中を流れます。体内を1日に50回めぐり、臓腑やからだの内外の器官を栄養して、その活動を支えます。

衛気

衛気とは、後天の精から得られる陽性の気のことをいいます。

衛気は脈外をすばやくめぐる気です。体表近くで活動して、皮膚を温めて保温し、皮膚の収縮と弛緩に関り、外邪と呼ばれる不調や病気の原因物質に対する防衛的な役割をもちます。

衛気は日中にからだの陽の部分、つまり体表部を25周し、夜の間に陰の部分である体内を25周します。

気の6つの働きについて

気には推動(すいどう)、温煦(おんく)、防御(ぼうぎょ)、固摂(こせつ)、気化(きか)、営養(えいよう)という、6つの生理的な機能があります。

推動作用

推動作用とは、人の成長や発育、からだのすべての生理的な活動や新陳代謝を推し進める働きです。原気、宗気、営気、衛気、臓腑の気などすべての気に備わっています。

温煦作用

温煦作用とは、臓腑や器官などからだの全ての組織を温めて、体温を保持する働きです。衛気、原気、腎気と密接な関係があります。

防御作用

防御作用とは、体表で外邪の侵入を防衛する働きです。衛気と深い関りがあり、免疫機能に該当します。

固摂作用

固摂作用とは、血や津液などをからだにつなぎ留める働きで、血が脈外に漏れ出ないようにし、汗や尿がむやみやたらに出てしまうことを防ぎます。営気、衛気、脾気、腎気と深い関りがあります。

気化作用

気化作用とは、精が気に変化したり、気が津液や血に変化したり、津液が汗や尿として体外に排出される働きをいいます。営気、衛気、宗気、肺気、腎気と深い関係があります。

営養作用

営養作用とは、水穀の精微などからつくられた物質の働きをいいます。この働きによって私たちのからだは五臓や経絡、身体の器官を養われ、生命活動を円滑に営むことができています。

営気や衛気と深い関りがあり血の源となるため、営養作用は血の働きであると考えることもできます。

気と五臓の関りについて

気のそれぞれの働きは肝気、心気、脾気、肺気、腎気として五臓と密接な関係があります。

肝と気

肝は疏泄(そせつ)作用という、気や血の流れを円滑にする働きを持ちます。

肝気が伸びやかであれば、気は順調にめぐり、精神的にも安定し、葛藤することもなく、脾胃の消化機能を助けることができます。

心と気

心気は心血(しんけつ)といいます。心が推動して、全身の栄養と精神活動の基本物質を運ぶ血を動かす働きがあります。心臓のリズムを一定にしたり無意識で行っている生理活動を支えたり、意識的な精神活動を支配したりします。

脾と気

脾気の働きで飲食物から後天の精を取り出し肺へ送り、気や津液、血などに変化させて全身へ送り出します。

脾は営気と関りが深く、血とともに脈中をめぐることで血が脈の外に漏れ出るのを防ぎ、全身を栄養して活力の元となります。

肺と気

肺の大切な生理作用の1つに気を主ることがあります。

肺気の働きで、肺は呼吸を通じて天の陽気を体内に取り入れます。この天の陽気と脾胃の働きで飲食物から得た地の陰気が合わさり、宗気、衛気、営気、さらに津液や血になります。

このうち営気と血は脈中を巡り、衛気と津液は肺の働きで全身に散布されます。さらにヘソ下の丹田に集まる原気が加わって、心と肺の働きで全身をくまなく気がめぐり、すべての臓腑や器官、組織の生理活動が営まれます。

腎と気

腎には納気作用という、吸気を丹田まで取り入れ精を原気に変化させ、活性化する大切な役割があります。

腎気の働きによって、腎は先天の精を腎に収納しています。また、後天の精からも常に補充されていて、生命力や成長、発育の源となります。この精が腎気によって活性化されたものが原気(元気)です。この原気は腎が持つ命門の妊娠・出産といった生殖に深い関りをもちます。

『気』の働きのまとめ

気はからだを正常に機能させるために、私たちが眠っている間も生きている限りは休むことなく働き活動しています。

そのため気の働きに何かしらの不調が生じると、からだも正常に働くことができなくなってしまいます。また反対に、五臓や組織、器官などの機能に不調があると気にも影響が現れ、血と津液の生成や代謝も不調となり疾病へと繋がっていきます。

気による身体の不調の原因には、気が足りなくなってしまったり、気の機能が低下したり、気の停滞が起こったり、気の巡行する向きに障害が起こったりすることがあり、現れる症状も様々です。

次回はこの気の不調について深掘りしていきます。

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