心・小腸の病症と不調について

前回は蔵象論の心と小腸の働きについてお伝えしました。

現代医学では一般的に、心臓は拍動して血液を全身に送り出す役割しています。

小腸は胃で消化された食べ物をさらに分解して、栄養素を吸収します。

小腸の働きは東洋医学と西洋医学で大きな差はありませんが、心に関しては現代医学で考えられている以上に、様々な役割を持つと考えます。

今回は、この心と小腸の働きが低下したときに現れる不調について深掘りします。

血脈を主り神を蔵する心の病症について

東洋医学で心は、血脈(けつみゃく)を主り、神を蔵する機能を持ちます。
心の機能が低下すると血液の循環と精神活動に異常が現れます。

心は脈を通して全身に必要な血をくまなく運行させています。

この働きによって臓腑やお肌や筋肉、骨などが栄養され、身体の円滑な活動が支えられます。

また、心身の正常な活動の統率を行うリーダー的役割を担っている「神」を蔵しています。
神によって心身のコントロールができないと、生命活動に関わる呼吸や心臓の拍動に異常が出たり、自分の意志で身体を上手に動かせなくなったり、五臓の機能が低下したり、メンタルのバランスが崩れたりします。

心の不調を引き起こす大きな原因は、過度な感情が引き起こす内傷(ないしょう)です。

心に関わる七情は「喜」です。
適度な喜ぶという感情は心を養いますが、喜びが度を越えてしまうと心の病を引き起こします。

特に心は顔と舌に深く関係し、心の不調で言語障害や味覚障害などが現れやすくなります。

また夏の頃(5月~7月)は心の季節なので、その不調が現れやすい傾向にあります。

五行の火の性質を持つ心は、夏の暑さによって適度に汗をかくことが養生になりますが、現代の猛暑による過度な熱さや、それによって大量にかく汗、クーラーでキンキンに冷えた室内の環境によって傷つけられてしまいます。

すると、動悸や不整脈のような心の機能の不調や、5月病に代表されるようにメンタルの不調、貧血や手足の冷えなどの症状が現れます。

以下はこの心の不調について詳しく解説します。

心気虚

心気虚(しんききょ)は生まれ持ったからだのエネルギーである先天の精の不足や、一時的な激しい感情である情動の失調、長期に及ぶ慢性病や、加齢にともなう臓器の機能減退などによって起こります。
これは、心のエネルギーである心気の不足による虚弱病証で、心悸(動悸)が主訴です。

胸苦しさや息切れ、倦怠感、暑くもないのに出る汗(自汗)のような症状を伴います。

心陽虚

心陽虚(しんようきょ)は、心気虚が長期に渡った場合や突然の重い病によって、心の陽気が不足して起こる虚寒病証です。

主訴は心悸や胸の痛みで、身体を温める力が不足する虚寒(きょかん)があるので寒さを嫌ったり、四肢の冷えを感じたりします。
胸の圧迫感である胸悶(きょうもん)や、気虚による症候を伴います。

心血虚

心血虚(しんけっきょ)は血が不足して、心に栄養が届かないために起こる病症です。

思慮過度(しりょかど)といって心配したり思い悩みすぎたりすることによる心身を潤し滋養する陰血の消耗や、過度な出血による心血の減少、血をつくる素となる飲食物の摂取不足、熱病による陰液や血の損傷など、心血虚はさまざまな原因で起こります。

全身の血不足、臓腑や組織の機能減退や失調として現れ、主訴は心悸や不眠、めまい、物忘れです。

心陰虚

心陰虚(しんいんきょ)は心を潤し栄養する陰液が不足して、心や神への栄養が悪くなり、神を主る機能が低下して現れます。
陰液や血の損傷によって身体のなかで相対的に陽が多くなり虚熱が生じる場合もあり、心火の亢進(熱証)を伴うこともあります。

主訴は心悸、不眠、手と足のひらが火照りソワソワと落ち着かなくなる五心煩熱(ごしんはんねつ)です。

心火亢進

心火亢進(しんかこうしん)とは、心火によって心神が影響を受けて起こる病証です。

怒・喜・思・憂・恐からなる五志(ごし)の異常、自然界の気候の変化が病気を発生させる風・寒・暑・湿・燥・火からなる六淫(ろくいん)の邪の熱化、お酒やタバコ、辛いものなどの刺激物の過剰摂取、温熱性の漢方薬の長期服用などが原因となります。

多くの場合が実熱証で、心悸、胸の煩熱(はんねつ)という煩わしい暑苦しさ、不眠、尿が赤く色が濃い状態などがあります。
心神への影響として、軽いものは胸に熱を感じて気分が落ち着かなくなる煩躁(はんそう)があったり、手足をバタバタさせるような落ち着かない状態や不眠が現れたりします。
重症になると理性を失う狂乱、うわごと、意識障害などが現れます。

心脈の阻滞

心脈の流れが悪くなることで起こる病証です。
心気虚や心陽虚の状態であるために血を推動する作用や血を温める(温煦)作用が低下し血行が悪くなり、瘀血が形成されます。

また、寒さが邪気となる寒邪の性質として、凝滞することによって血行障害が起こることがあります。

さらに水分の停滞によって痰濁(たんだく)というねばっとした水分の老廃物ができて、気のめぐりの悪さから気滞(きたい)になり心脈の流れが悪くなることもあります。
主訴は心悸、背部にひろく痛みが出る胸痛、胸苦しさなどです。

飲食物を水分と固形物に仕分けする小腸の病症について

小腸は胃から送られた飲食物のカスである水穀(すいこく)を受け取り必要なエネルギーになる清と不要物である濁を仕分けし、固形物は大腸へ、水分は膀胱へとにじませる機能を持ちます。

この小腸の病証には虚寒病証(きょかんびょうしょう)と、実熱病証(じつねつびょうしょう)があります。

小腸の虚寒病証は、小腸の消化機能の減退、清濁を分別する機能の減退として現れます。
これは寒邪の侵入によって中焦(ちゅうしょう)という胃にあたる部分の陽気が損傷し、腎陽不足で温煦作用が低下すると起こります。

主訴は食後の腹張、未消化による下痢、お腹がゴロゴロと動いている音が聞こえる腹鳴です。

小腸の実熱病証は、体内にたまった余分な水分と熱がまざった湿熱(しつねつ)が小腸や小腸の経絡である手の太陽小腸経にこもり、心の手の少陰心経の熱が小腸に影響して起こる病証です。

主訴は小便が赤くなったり濁ったり、舌先が真っ赤になったりします。

心小腸の働きの低下によって起こる不調まとめ

心の血脈を主る機能や神を蔵する機能が低下すると、気血津液や腎にも影響が現れ、以下のような症状が現れます。

  • 心悸
  • 胸苦しさや胸に感じるソワソワ感や焦燥感
  • 躁うつやメンタルの異常
  • 不眠
  • 舌の運動異常や味覚の異常

心は火の性質をもちます。炎が炎上するように、心の機能が何らかの原因で低下すると胸元がソワソワしたり落ち着かなかったり不眠になったり、心臓がドキドキする動悸が出たりと、胸より上に症状が現れやすくなります。

特にメンタル面の不調には心が深く関わり、ストレス社会に生きる私たちは少なからず影響を受けている臓器ではないでしょうか。

心が蔵する「神」は見ることができないので、イメージしにくいかもしれません。

しかし、心臓の「心」は「こころ」という字を書きます。

血液のポンプ的な役割だけではなく、私たちのメンタルに深く関わるため、東洋医学的な心の養生はこころの養生につながるといえます。

気持ちが落ち込みやすくメンタルが不安定な方は、五臓の心のケアをしてみてはいかがでしょうか。

関連記事

TOP