【漢方・中医学の基本】腎・膀胱の病症と不調について

西洋医学で“腎臓”は、老廃物を排出するために尿をつくる場所です。体内の水分量やミネラルの濃度を調整したり、血圧を調整したりする働きをもちます。“膀胱”は、腎臓で作られた尿を貯め、ある程度の量になったら排出する役割があります。

東洋医学における“腎”は、“腎臓”とは呼び名が異なりますが、その役割にも大きな違いがあります。
まず尿を作るだけではなく、身体全体の水分代謝に関わります。また生命力の根源である原気(元気)を貯蔵して、生殖機能や身体の成長・発育に関与し、加齢にも影響します。一見関係なさそうな呼吸にも関わり、大きく深呼吸するときのような深い吸気を行っています。

膀胱は肺、脾、腎、三焦の働きで巡った水分を、気の気化作用(津液を汗や尿として体外に出す働き)で膀胱に集め、尿として排出します。

腎や膀胱の働きが低下すると、活動量が落ちたり身体が冷えたりします。生殖能力も低下するため、婦人科系の不調や不妊、更年期などのトラブルに悩まされやすくなります。また元気がなくなるため、病気への抵抗力が低下し、治りにくくなったり、老化現象が著しく出たりする可能性があります。

腎の機能低下は、特に女性が見過ごせない問題が山積みです。
今回は、腎や膀胱の働きが低下したときの症候について深掘りします。

蔵精・主水・納気作用をもつ腎の病症について

腎は『蔵精(ぞうせい)』『主水(しゅすい)』『納気(のうき)』という3つの生理作用をもっています。

精には、両親から先天的に受け継ぐ先天の精と、飲食物から得られる後天の精があります。腎の病はこの精を貯蔵する力、すなわち蔵精作用の低下によって起こります。
過度な性生活や栄養の吸収不良、加齢、慢性疾患などが主な原因にあります。
また、精には脳・髄・骨を養う働きもあるため、腎の働きが低下すると、物忘れや記憶力の低下、腰痛、下肢に力が入らないなどの不調が現れます。

主水作用によって全身の津液の調整も行っているので、腎の働きが低下すると尿の出が悪くなって浮腫みにつながります。

また気をお腹の深いところに収める納気作用を主るため、腎が虚すると気を正しい身体の場所に収めることができなくなり、バランスが崩れてしまいます。深い呼吸が出来ず呼吸困難にまでなることもあります。

さらに腎は、耳や髪、歯、二陰(にいん;大便と小便が出る場所)と生理的な関係があるので、腎が病むとこれらの身体のパーツに不調が現れてきます。

腎精の不足

腎に貯蔵された精が不足すると、エネルギーが足りず発育が悪くなります。性器と性機能の成熟や機能に障害が出たり、老化が早まったりすることがあります。

前回、腎の生理機能の記事で『腎は先天の精を生まれながらに蔵し、日々の食事から補っています。そしてこの精は女性の場合は28歳、男性は32歳がピークで、その後は年々減少します。』とお伝えしました。しかし、なんらかの原因で年齢に見合わない腎精の不足が起こると、その時期ごとにさまざまな不調が現れます。

子供の場合は発育に影響するため、五遅五軟(ごちごなん)という、歩き出すのや発語が遅い発育不全の状態がみられます。思春期では精気の成熟に影響するので、男子は精液の生成が遅れ、女子は初経の時期や乳房の発達に影響します。壮年期では不妊症や、陽萎(ようい)という男性の勃起不全につながります。老年期では、老化が早まるので腰や膝が弱くなり、耳が遠くなったり老眼が早く起こったりします。

腎陰虚

腎陰虚(じんいんきょ)は、腎を潤す水である陰液が不足した病症です。
原因としては、先天の精の不足や過度な性生活、出血過多や脱水状態、強い驚きや恐怖などがあります。主な不調には、腰や膝の痛み、めまい、耳鳴り、五心煩熱(ごしんはんねつ;手や足裏に強くて不快な熱感を感じる)などの症状があります。

腎は全身の水分調節も担っている臓腑なので、腎陰の不足は全身の臓腑組織の陰液の不足につながります。そのため腎だけではなく、他の臓腑と合わせて不調が出ることが多くあります。不眠や夢をたくさんみる、のどの強い渇き、便秘、五心煩熱、寝汗、午後に熱感を感じるなど陰虚の症状が現れます。

腎陽虚

腎陽虚(じんようきょ)では、気がもつ温煦(おんく)作用(身体を温める働き)や、気化作用(精が気になったり、気が血や津液に変化したり、津液が汗や尿となって体外に排出される働き)の低下が現れることによって、元気が出ず活動的になれなかったり、性機能が減退したり、生育能力の低下が起こったりします。
この原因としては、老化や過度の性生活、先天の精の不足などがあります。また、他の臓腑の陽虚から影響されてなる場合や腎の気虚や腎精の不足からなる場合もあります。

主な不調としては、腰や膝が弱くなる、冷えを感じる、寒がりやすいなどがあります。温煦機能の低下によって全身の冷えが現れ、脾の生理作用が低下すると食べ物を消化できなくなり下痢するようになります。また、不妊症や男性の勃起不全にも大きく関ります。温煦作用の低下により、水を主る機能の低下とともに腎の気化作用も低下するので、むくみや尿量の減少が起こります。

腎気虚

腎気虚(じんききょ)は腎の機能低下の病証です。この腎気虚には腎気不固(じんきふこ)と腎不納気(じんふのうき)の2つの種類があり、その原因には先天の精不足や過労、老化、慢性的な全身の気虚症状などがあります。

①腎気不固
腎がもつ、精を蔵するという貯蔵庫の役割が低下した状態です。早漏や遺尿、小便失禁、流産しやすい、おりものなどが出やすいなどの症状が現れます。これらと一緒に腰や膝の不調、耳鳴り、難聴を伴いやすい病症です。

②腎不納気
腎の納気作用が低下することによって深く息が吸えなくなり、喘息や呼吸困難、息切れなどが現れる病症です。

尿の貯蔵と排泄をする膀胱の病症について

膀胱は尿を貯蔵し排泄します。そのため、膀胱の不調は主に排尿異常に現れます。
腎の陽気が不足し、膀胱が持つ尿を排出する気化作用が低下すると、尿が出にくい、あるいは出ないといった状態が起こります。

膀胱湿熱

膀胱湿熱(ぼうこうしつねつ)は、湿熱という熱を帯びた身体の中にたまった水や湿が膀胱にこもった状態です。余分な湿熱が膀胱の働きを邪魔するので、頻尿や尿意が頻繁に訪れたり、排尿痛があったり、尿がにごったりする状態になります。湿熱が長期で膀胱にとどまると、結石を形成することもあるといわれています。

腎・膀胱の働きの低下によって起こる不調まとめ

腎や膀胱の働きが低下することによる主な不調には、精気不足による疲労感や水分代謝の低下によるむくみ、生殖や発育力の低下によって起こる不妊症やED、納気ができないことによる浅い呼吸等があります。具体的な症状は以下の通りです。

 不妊
 子供の発育成長不全
 老化
 むくみ
 腰膝の弱体化
 耳鳴り、耳が遠い
 尿の排出異常
 ほてり感(腎陰虚)
 全身の冷え(腎陽虚)
 疲労感

中医学の古典に『腎気虚すれば即ち厥し、実すれば即ち五臓安からず。』という一説があります。腎の気が虚して足りなければ健康を害しますが、充実していれば五臓は安心であるという言葉にある通り、からだの要となる大切な臓腑だということが分かります。

腎は悩みを抱える人も多く、妊活に深く関わります。またアンチエイジングなど美容面にも影響するため、十分に養生したいポイントです。

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