【漢方・中医学の基本】肺・大腸の病症と不調について

西洋医学における”肺“は、酸素を口と鼻から取り入れて、不必要になった二酸化炭素を排出する働きをもつ臓器です。

“大腸”は、胃で消化した食べ物から身体に必要なミネラルや水分を吸収し、最後に便を排出します。

それに対して東洋医学における“肺”は、呼吸だけではなく、呼吸の運動を使って手足の末端まで気血津液を届け栄養して正しい活動ができるようにし、体温調節を行います。また、からだの余分な水分を身体の下部に送り、尿として排出できるようにします。

大腸は糟粕(そうはく)という飲食物のカスを、肺の働きで、小腸から大腸、肛門まで下ろし糞便として排出します。

肺や大腸の働きが低下すると、例えば女性の約4割が悩むといわれている便秘や、ダイエットの妨げになるむくみなど、様々な影響が現れます。

今回は、肺と大腸の働きが低下したときの症候について深掘りします。

宣発・粛降作用をもつ肺の病症について

東洋医学で肺は、呼吸や宣発(せんぱつ)・粛降(しゅくこう)の作用、水道の通調を主り、心血の巡りを助けています。

この働きが低下すると、呼吸や気の滞り、津液の代謝や血行に障害が起きます。また肺は、皮毛という肌や産毛、鼻、声と生理的な関係があるので、肺の機能が低下するとこれらにも異常が反映されます。

肺の不調の原因の1つに、からだの内側から起こる “憂”という悲しみの感情が挙げられます。肺の季節である秋になんとなく物悲しい気持ちになりやすいのは、肺の機能が低下しやすい季節だからです。反対に、悲しい気持ちが続いてしまうと肺を傷めます。

一方からだの外側から襲ってくるものを外邪といい、外邪によって受けるダメージに対して、肺は五臓の中でもっとも弱く繊細だとされています。「肺為嬌臓、畏寒、畏熱」(=肺は華奢な臓器で、寒さをこわがり、熱さもこわがる)と漢方医学の古典にも記されており、他の臓腑の不調の影響も受けやすい臓腑です。

肺の宣発・粛降の失調

外邪の侵入や痰湿の停滞によって、肺気の宣発粛降作用や気道を通じる働き、水道を通調する働きといった肺の生理作用は低下します。

肺の宣発作用が低下すると、呼吸がしにくくなり、咳やくしゃみ、鼻閉などの症状が現れます。気の出入り口となる腠理(そうり)が閉じ塞がってしまうと無汗になります。

肺の粛降作用が低下すると、吸気をからだの下部へおろせなくなるので、呼吸を深く吸えず、ぜんそくになったり咳き込んだりします。

水道がつまると、痰飲(たんいん)という体の中で上手に代謝できずため込んだネバネバとした余分な水分が停滞し、むくみにつながります。

肺の生理作用が低下することによって、主に咳、痰、鼻の異常が現れます。外邪が原因となっている場合、この主訴に、悪寒(おかん)やかぜにあたると悪寒がする悪風(おふう)、発熱などの表証の症状を伴います。これについは外邪の性質によって痰の量や性質が異なるので、観察が必要です。

肺気虚

肺気虚(はいききょ)は肺の機能が減退した病症です。

特に気の固泄作用(こせつさよう)という、内臓の位置を固定したり気血津液(例えば汗や尿)が不必要にからだの外に漏れ出ないように留めておいたりする機能が低下する衛表不固(えいひょうふこ)や、津液の輸送機能に失調が現れます。

慢性的な咳のし過ぎや、脾虚によっても肺気を損傷します。汗のかき過ぎで汗とともに気が漏れ出て、肺気を損傷している場合もあります。

肺気虚の主訴は力や勢いのない咳または喘息、声に力がない、暑くないのにじっとしていると汗が出る自汗(じかん)があります。肺気虚によって呼吸や血液を身体に巡らせるための気である宗気(そうき)が弱くなると、呼吸自体も弱くなり、酸素と二酸化炭素の交換もうまくいかなくなります。すると、咳や喘息、息切れが起こります。

肺陰虚

肺陰虚(はいいんきょ)は、肺の熱が上がりすぎないように調整する陰液が損傷し、冷却水がないために虚熱が発生して、粛降作用が失調して起こる虚熱証です。長期間にわたる咳や、熱を伴う病証による肺陰の損傷、燥邪などが原因となります。

主訴は、空咳またはむせるような咳に咽頭の渇きを覚え、痰はネバネバしていて量は少ないことが特徴です。

潮熱(ちょうねつ)という、悪寒を感じない熱が全身にみなぎるような熱感があります。この潮熱は特に午後に感じます。また、五心煩熱(ごしんはんねつ)という手のひらや足裏がほてりソワソワと落ち着かないような感覚や寝汗を伴い、痰に血が混ざることもあります。

糟粕を伝導する大腸の病症について

大腸の働きは、脾胃で消化吸収して最後に残った糟粕(そうはく)という食べ物のカスを、小腸から肛門へと伝導します。そして最後に肛門から便として排出します。そのため、主な大腸の病変は排便異常として現れます。

大腸湿熱

大腸湿熱(だいちょうしつねつ)とは、大腸に湿熱が停滞することによって起こります。

大腸の炎症ですので、現代医学的には細菌性の下痢や慢性的な下痢、腸炎が該当します。

下腹部が痛む下痢や肛門の熱感、痔、発熱などを伴うことがあります。

大腸燥結                                                                         

大腸燥結(だいちょうそうけつ)とは、大腸の陰液が不足した状態です。ほてり感はなく、老人性の便秘だったり、産後すぐや持病を持っているなど身体のエネルギー不足による陰液の不足から便が出にくかったり、コロコロとした便になったりします。

陽虚滑泄

陽虚滑泄(ようきょかっせつ)とは慢性的な下痢が長期間に渡ったために、肺の陽気を損傷して気の固摂作用が低下したために起きる状態です。

固摂はからだの中に必要なものは留めておく働きですが、この機能が低下すると必要なものをキープできないので、慢性的な下痢や大便の失禁、排便後に脱肛するなどの症状が現れます。また冷えて悪化する腹部の痛みや寒さを感じやすくなります。

肺と大腸の働きの低下によって起こる不調のまとめ

肺と大腸の働きが低下することによる主な不調は、呼吸とそれに伴う気血津液を末端まで巡らせる機能、皮膚や鼻、そして排便に関わる異常です。

  • 呼吸の異常(咳や痰がからむ、呼吸が浅くなるなど)
  • 声が小さい、枯れる
  • 皮膚の乾燥や湿疹
  • むくみ
  • 鼻水の分泌異常
  • 便秘や下痢などの排便異常

前述したとおり、肺は「肺為嬌臓、畏寒、畏熱」という性質をもちます。これは他の肝・心・脾・腎と違い、口や鼻、皮膚などを通して特設的に外の世界と触れているため、温度や湿度、気圧など外邪の影響を最初に受けてしまいます。

東洋医学では、1年を24等分、約15日間を一区切りとする二十四節気で季節をみます。

秋は8月7日ごろの立秋から始まり、11月7日ごろの立冬で冬に季節が移ろいでいきます。今回学んだ肺と大腸は、五行では“秋”に分類されるので、8月の後半になると「季節外れの風邪かな?」と感じるような、鼻やノドに違和感を覚えたことがある人もいらっしゃるのではないでしょうか。

8月7日というと日本はまだ夏真っ盛りですよね。ですが実際には空気に湿気が混ざらなくなり、カラッとした気候になってきます。このときに暑いからといって冷たく乾燥するような風に当たってしまうと、肺の病証が現れる原因となります。肌を晒しても外邪が侵入してしまうので、一枚羽織るように心がけるのが養生のポイントです。

それを怠り、夏の初めのようにクーラーをガンガンつけていたり、薄着でずっといたりすると、風邪(ふうじゃ)による季節外れの風邪をひくことになってしまいます。

周りをすべて海に囲まれる日本と大陸の中国では気候も異なりますし、温暖化の影響で年々気温は高くなっています。熱中症や熱射病に気を付けながら、季節の移ろいを観察して肺の養生を行っていきましょう。

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