【漢方・中医学の基本】身体のエネルギー源、『気』の不調

東洋医学において「気・血・津液」は人体を構成する基本的な物質で、五臓六腑やからだの器官、組織、経絡が生理的な活動を行うためのエネルギーになります。

そのため漢方の考え方ではからだの不調や悩みがあるとき、まず気・血・津液にどのような変調が生じているのかをみます。

なかでも『気』は、私たちが身体を正常に動かすための根幹を担っている重要な物質です。血や津液の生成や運行にも関わり、からだの基礎的な働きに関与しています。

今回はその『気』の機能が損なわれてしまったときに、私たちのからだに現れる不調について詳しく解説します。

4つの気の不調について

気の働きが低下する病証は、気の生成不足や消耗過多、機能減退、停滞、昇降出入の失調などが原因で起こります。

大きく分けると、気虚(ききょ)、気滞(きたい)、気逆(きぎゃく)、気陥(きかん)の4つ病態があります。

1.気虚

気虚とは、気の生成不足と消耗過多、機能の減退で気が不足して起こる病証です。

例えば両親の身体虚弱や高齢での出産により先天の精が不足している、食事が満足に取れていないために後天の精が補充できていない、あるいは日々の生活での心身の過労や性生活過多、大病や慢性的な病気よって気を消耗している。これらのようなことが、気が不足する原因として挙げられます。

気虚では、無気力感のような精神の萎縮や停滞、倦怠感、手足の無力感、めまい、自汗(じかん:暑くもないのに汗が出る)、風邪をひきやすい、病が治りにくいといった症状が現れます。

2.気滞

気滞とは気の運行が滞っている病証です。

気は経脈の中を営気が、外を衛気が流れています。その運行が停滞すると、気がからだの中を昇降したり内外を出入りしたりできなくなります。この原因には、激しい感情や情緒の乱れ、寒邪や湿邪の侵入による経絡の渋滞、飲食物の不摂生、痰や血による経絡の巡りの阻害、打撲や捻挫のような外傷などがあります。

気が巡っていない、すなわち気持ちが伸びやかではなくなることで、イライラしやすく精神的に抑鬱傾向がみられるようになります。ため息をよくついたり、げっぷが出やすくなったり、梅核気(ばいかくき)という喉の下の方に梅干しの種がつまったようなつかえ感を感じたりする症状が現れます。

営気の停滞があった場合には、外邪の侵入によって関連する臓腑が正常に機能しなくなります。特に寒邪による気滞は痛みが発生しやすく、湿邪による場合はしびれやマヒを伴いやすいという特徴があります。

衛気が停滞すると発汗が抑制されるか、反対に寝汗や自汗で汗をかきすぎて体力を消耗することとなります。また免疫にも関わるので、外邪の侵入による不調を招きやすくなります。

3.気逆

気逆とは、気の昇降が失調して臓腑の気が上逆する病態のことです。

気には、からだそれぞれの場所で働き、巡り、出入りする向きがあります。これを気機(きき)といいます。そのバランスを保つことによって平衡状態を維持しているため、逆方向に向いてしまうと、五臓六腑をはじめとするからだの内外でさまざまな不調を引き起こします。

原因には外邪の侵入やストレスなどが挙げられます。

主な不調として、咳やげっぷ、しゃっくりや悪心、興奮状態が落ち着かない、めまいなどが現れることがあります。

4.気陥

気陥は気虚下陥(ききょげかん)ともいい、気が不足することによって、からだの機能や内臓、器官を持ち上げキープする力が低下する病証です。

気には固摂(こせつ)作用という、内臓がからだの外に出てしまわないように中に留めたり、血液が漏れ出ないようにしたりする働きがあります。この働きが低下すると、内臓を本来の位置に留めておくことができずに落ちてしまいます。

そのため下痢や胃下垂、子宮脱、脱肛などの内臓下垂が病証として現れることがあります。

気と五臓の不調について

気は肝、心、脾、肺、腎それぞれの働きとも密接に関係していて、それを臓気(ぞうき)といいます。五臓それぞれのなかに収まり、その経絡の活動を支えて、各臓腑が行う生理的な活動のエネルギーとなります。

そのため肝気、心気、脾気、肺気、腎気の何が乱れているかによっても、不調の現れ方が異なります。

肝と気の不調

肝には疏泄(そせつ)作用という、気血津液を伸び伸びと巡らせる働きがあります。この機能が低下すると気の流れは滞り、気滞を招きます。

イライラ感や強い怒りによって肝の働きは阻害され、また特に春に不調が現れやすくなります。肝気の巡りが悪くなると血の巡りも悪くなるため、女性の場合は婦人科系への影響もあります。

心と気の不調

心気が不足すると心気虚になります。心は心臓から血液を送り出すポンプ的な役割だけではなく、心身のコントロールや血脈に関ります。

心の不調により、動悸や息切れ、全身の倦怠感やストレスを感じやすくなります。また心気が不足する状態が続くと、陽気が足りなくなり手足が冷え、暑くもないのに汗が出ることがあります。

脾と気の不調

脾胃の働きが低下し後天の精を十分に得ることができないと、脾気虚につながります。

脾には昇清(しょうせい)作用という食べ物から吸収したものを胃から上部の肺に送り、臓腑や器官が下がらないようにつなぎとめる働きがあります。

また胃の気には、上へ向かう脾気とは反対の通降(つうこう)という下ろす働きがあります。胃の気が上逆すると消化して便として排出する方向とは逆となり、げっぷや悪心、嘔吐などの症状が現れます。

肺と気の不調

肺には宣発(せんぱつ)作用という、噴水のように気や必要な栄養を身体の末端まで届ける働きがあります。また粛降(しゅくこう)作用という下方に気を送る働きも持ちます。降りてきた気は納気(のうき)作用をもつ腎に収められます。

肺の気が足りないとこの役割を行えず、呼吸が浅くなったり咳や喘息などの症状が現れやすくなったりします。また気虚によって気血津液をうまく全身に運べなくなると、津液の停滞から痰がでたり、気血の停滞から胸が苦しくなったり、咳が出たりすることがあります。

腎と気の不調

腎の気虚が起こると、からだのエネルギー源である精を貯蔵する力や、水分代謝、肺と連動して気を収める機能が低下するため、生殖機能の不調や、むくみ、深い息を吸いにくくなるといった不調を招きます。

また腎は、耳や腰、尿とも関りがあるため、耳鳴りやめまい感、腰痛、膝の痛み、尿の出が悪くなるなどの変調がみられることもあります。からだの成長や発育、生殖機能の働きにも関わるため、腎の気が不足すると妊活への影響も現れます。

気の不調についてのまとめ

「病は気から」という言葉があります。

気持ち次第で病気は良くも悪くもなるという意味のことわざですが、漢方・中医学の観点から考えると、まさに病は気から引き起こされるといっても過言ではありません。

気は現代科学では目に見ることができませんが、東洋医学ではすべての根幹です。

気が不足したり、渋滞したり、反対方向に走り出すことによって、私たちの身体はそのすべての機能に影響が現れてしまいます。気を過不足なく充実させて順調に運行させることによって、血も津液も五臓もその働きを十分に発揮することができます。

東洋医学で気の概念は躓きやすいところですが、とても大事なポイントなのでぜひ理解を深めてください。

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