これまで4回にわたり東洋医学の内臓観をお伝えしてきましたが、今回が最終回です。
最後は、腎とその表裏関係にある膀胱の蔵象論について詳しく解説します。
五臓の腎の働きについて
腎は五行の水に配当され、膀胱と対になります。
精を蔵して、生命力の根源になる原気をもたらす
精とは、人間の身体を働かせるエネルギーです。
生命力や成長、発育の根源となるもので、2種類あります。1つは先天の精という両親から受け継いだ生まれ持った生命エネルギーで、腎に蔵されています。もうひとつは後天の精といい、飲食物から日々補充されています。精が腎によって活性化したものが原気(元気)で、食欲や性欲、その他の欲求をもたらします。
人は腎の働きが盛んになるにつれて成長し、生殖能力を生み出します。腎精が充実していれば基本的な活力である元気も盛んなので、活動的で病気にもなりにくい状態です。反対に腎精が減ると活動的でなくなり、身体が冷えます。また、生殖器系の能力が低下し、病気になりやすく治りにくくなり、老化現象も現れます。
津液を主って、全身の水分代謝を調整する
津液という身体にとって必要な水を脾胃と肺の力で全身に散布したあと、不要になったものは腎が集めて処理します。津液全体を調整する腎の働きがうまくいかなくなると、むくみや尿の出の悪化、下痢などの症状が現れます。
骨を主り、その状態は髪に反映される
腎の精は骨髄(こつずい)を生育します。髄は骨の中にあり、骨に栄養を与えているため、腎が正常であれば精が十分で髄が充実し、骨も歯も丈夫になります。また、その状態は髪に反映されるので、髪は黒々とツヤがあり、よく伸びます。
反対に腎の働きが低下して精が不足したり老化により衰えたりすると、発育不良や老化に伴う歯の不調や、骨がもろくなる、白髪や脱毛が増える、ハリやツヤがなくなるといった症状が現れます。
耳と二陰に開竅する
腎は耳と二陰(にいん)を通して外界とつながっていると東洋医学では考えます。腎精がしっかりしていれば、耳は音声を良く聞き分けて判断することができます。老化などで腎が衰えると難聴や耳鳴りなどの症状が現れます。
また二陰とは、小便が出る前陰(ぜんいん)と、大便が出る後陰(こういん)のことをいいます。腎は水分を調節し、不要となったものを大小便として身体の外とつながっている2つの出口から排出します。そのためその状態が反映される大小便の異常は、腎の異常だと捉えることができます。
液は唾
腎は骨髄を主り歯を支配します。その歯の生えているところから出る液は唾です。
腎の働きが正常であれば適切に唾が出ますが、低下すると唾の出にも影響します。
作強の官
腎は東洋医学で作強(さきょう)の官と呼ばれます。腎は重労働に耐えられて動作が軽く強いので、将軍のように作戦を立てて身体の不調の原因と戦う肝をサポートする役割があります。また腎の働きが正常であれば、体力も元気もあるので、根気がいるような細かい作業もやり抜くことができます。
六腑の膀胱の働きについて
膀胱とは小便の入った袋のことで、下腹部の前方にあります。
からだの中に取り入れられた水分は肺、脾、腎、三焦の働きによって全身をめぐった後、気化作用によって膀胱に集め貯えられて、やがて尿になり排泄されます。
気化作用とは精が気に、気が津液や血に変化したり、津液が汗や尿となって体外に排出されたりする働きをいいます。
洲都の官
膀胱は洲都(しゅうと)の官といって、水が集まる地方都市を管理する役人に例えられます。
腎の気化作用によってつくられた尿は膀胱で貯められ、一定量になると尿意を感じて排出されます。
この役割ができていないと、尿を貯めることが上手にできなかったり、まだ溜まりきっていないのに尿意を感じたりするなどのアンバランスが起こります。
腎・膀胱の働きまとめ
中医学では腎の生理作用を、『蔵精(ぞうせい)』『主水(しゅすい)』『納気(のうき)』の3つにまとめています。
①蔵精作用
腎は先天の精を生まれながらに蔵し、日々の食事から補っています。そしてこの精は女性は28歳、男性は32歳がピークで、その後は年々減少します。これが老化現象です。
中国の最古の医学書である『黄帝内経素問(こうていだいけいそもん)』の上古天真論(じょうこてんしんろん)には女性は7の倍数、男性は8の倍数の年齢が節目になり身体が変化するとあります。
~女性の場合~
7歳:歯が永久歯に生え変わり、髪が伸びる
14歳:月経がはじまる
21歳:親不知が生え、身長が伸びきる
28歳:筋骨が丈夫で、髪の毛も豊かになる
35歳:顔面がやつれはじめて、髪が抜け始める
42歳:顔がやつれ輝きがなくなり、白髪が生える
49歳:閉経し、からだが全体的に衰える
~男性の場合~
8歳:歯が永久歯に生え変わり、髪が伸びる
16歳:射精できるようになる
24歳:筋骨が丈夫で親不知が生えて、身長が伸びきる
32歳:筋骨がさらにたくましくなり、もっともパワーがある
40歳:髪が抜け始めて、歯がやせてツヤがなくなる
48歳;顔がやつれて輝きがなくなり白髪が生える
56歳:からだが衰え肉体労働できなくなってくる
64歳:歯が抜け、髪が抜け落ちる
必ずしもこの年齢で変化するというわけではありませんし、何千年も昔と今では生活や食べ物、医療も異なるので差異はあります。ですが、おおよその目安として身体にはこのような変化が現れます。
例えば、両親が高齢だったり病気がちだったりすることが原因で先天の精が少なく生まれることや、不摂生な生活やバランスの悪い食事を続けることで後天の精を適切に補充できないことで、腎精が少なくなると、この7歳・8歳毎の変化も顕著に現れます。
逆に腎の働きが健康で腎精を十分に蓄えられていればゆるやかな変化となり、これが“アンチエイジング”につながります。
からだの健康面においても、美容面においても腎は加齢に非常に関わっています。
②主水作用
腎には体内の水分を貯め、調整、分布、排出する作用があります。
飲食物として口から身体に入ってきた水分は、まず脾胃の働きで水穀の精微(すいこくのせいび)という身体を滋養する物質に形を変化させます。そして胃から肺に送られ、肺の呼吸で身体のすみずみまで届き、全身を栄養し潤します。そして最後に不要な水分は尿や汗として排出されます。
身体の中の水分は腎が調整し、膀胱によって排出されていきますが、水の運行自体には脾胃、肺、腎が関わります。そのため、多くの方が悩むむくみには、単純に水分を排出する腎の働きを整えることだけではなく、脾胃や肺の機能も整えなくてはいけないことが分かります。
③納気作用
納気作用とは深い呼吸に関わるものです。呼吸自体は肺の働きによりますが、腎には吸った息をヘソ下の臍下丹田(さいかたんでん)まで取り入れて、精を元気にし活性化させる働きがあります。腎の働きが弱いと納気ができず、お腹の深いところまで息を吸い込むことができないので、浅い呼吸になったり、呼吸困難、息切れ、喘息などの症状が現れます。
腎膀胱は五行で分類すると「水」の性質で、季節は冬と深い関りがあります。
「水」の特性は「潤下(じゅんか)」です。水は傾斜があれば下へと流れます。逆に水だけの力で上に昇っていくことはありません。水の性質である、滋潤、寒冷、下へ物を運ぶ作用はすべて水に属します。
秋に枯れた草木は寒さを耐え忍ぶためにその成長を止めます。種も土のなかで春を待ちます。動物たちも冬眠して余計なエネルギーを使わないように、食べ物をしっかり食べて身体に溜め込んで眠りにつきます。つまり、腎は精というエネルギーを貯める臓器ですが、冬は自然界も“貯蔵する”季節で、同じ性質だといえます。
冬の五情は「恐・驚」です。
この時期はなんてことないことでも恐怖や不安を感じやすくなったり、長く暗い夜に深刻に物事を考えすぎてしまったりする傾向があります。また腎が弱い人は極端に恐がりやすかったり、ビックリしやすかったりします。ですので、腎が弱い人や加齢によって腎精が少なくなったご高齢の方を後ろから驚かせたり、怖がらせたりすることはやめましょう。余計にその方の腎の働きが低下し、疲れさせてしまうことになります。
また、大きなショックにあった後や強い疲労感を感じた後に急に白髪が増えた!なんてことを、ご自身や家族で経験されたことがある人もいるのではないでしょうか。これは、強い「恐・驚」といった感情によって腎の働きが低下し、腎精を酷使したことによってその影響が髪に反映されたからだと説明できます。
他にも腎の働きが低下することによってさまざまな不調が現れます。
次回はこの腎膀胱の不調を詳しく解説していきます。