【漢方・中医学の基本】からだを潤し営養する『血』のはたらき

東洋医学では、『血』を“チ”ではなく、“ケツ”と呼びます。

『血(けつ)』とは、私たちもよく知る血液のような物質です。

西洋医学的にはからだの末端まで酸素や栄養、ホルモンを運び、免疫や体温調節などに関わるものとされています。

東洋医学でも、顕微鏡で赤血球や白血球、血小板などを見ることができない時代から、『血』は現代医学における血(ち)と似た働きをすることを、先人たちはさまざまな経験を通して知っていました。

東洋医学の長い歴史の中で、重要なエネルギーであるが目に見ることができない気よりも、多量の出血で命を落としてしまうことがある血の方が重視されていた時代があるほどです。

今回は、血(けつ)の働きについて、詳しく解説します。

血の生成

血とは、脈中を流れる赤色の液状の物質をいいます。

この血の源は飲食物です。脾胃の消化・吸収作用により、飲食物からエネルギー(後天の精)を取り出し、そこから営気(えいき)を得ます。営気は気化作用で身体に必要な水である津液を血液に変化させています。また必要に応じて、血は腎に貯蔵されている精によっても作られます。

血の働き

血は営気と一緒に脈中を流れます。1日に人体を50回巡り、四肢や臓腑、精神を潤し栄養して、その活動を支えます。この働きのことを濡養(じゅよう)作用といいます。

西洋医学の血液と東洋医学の血の違いは、精神も営養しているという点です。

血は精神意識活動の基本的な物質とされています。

気と血が充実していれば意識ははっきりとして、精神的な活動も充実します。反対に気血が不足していれば精神活動も不安定になり、ストレスを感じやすくなったり精神が不安定になったりします。

血と五臓の関り

血は五臓のなかでも主に、肝、心、脾と深い関りがあります。

肝と血

肝には、蔵血(ぞうけつ)と疏泄(そせつ)の働きがあり、血液の貯蔵庫としての働きを蔵血作用といいます。からだの各部位の活動状況に応じて血量を調整しています。

夜に寝るために横になったとき徐々に眠くなりやがて眠りにつくのは、多くの血が肝に戻って脳への血流量が少なくなるからです。そのため肝の蔵血作用が低下するとなかなか寝付けなくなります。

眠っているときは肝に血が蓄えられて四肢の血液も少なくなりますが、活動しだすと肝は貯蔵していた血を速やかに四肢や全身に配分し、活動を円滑に行わせます。この働きのおかげで頭に血が上ることもなく、四肢の筋肉は力強く運動します。

肝の機能が低下し血の調節がうまくいかなくなると、頭痛やめまい、耳鳴り、顔面蒼白、難聴、月経異常などを引き起こします。

心と血

心は血脈(けつみゃく)を主る作用をもちます。心は脈を介してポンプのように全身にくまなく血を運行させて、五臓や筋肉、肌など身体の各部位の活動を支えています。

心の働きが順調であれば脈拍も規則正しくうち、血の巡りも滑らかになります。心の働きが低下していると脈拍は異常をきたし、血の巡りも悪くなります。

また、心は神志(しんし)を主っています。神志とは精神活動や無意識的な生命活動に関わるもので、血が充実していないと神志も乱れ、心身のバランスを崩すこととなります。

脾と血

脾は飲食物から後天の精を取り出し、血の原材料を作ります。

また血と一緒に脈中を巡る営気の働きによって血が脈外に漏れ出ることを防ぎ、全身に栄養を与えます。この働きのことを統血(とうけつ)作用といいます。

脾の統血作用が低下すると血が脈の外へと漏れ出てしまう、つまり出血してしまうため血便や血尿、不正出血などが起こります。

まれに身に覚えのない内出血ができやすかったり、ちょっとした刺激ですぐに内出血したりする方がいらっしゃいますが、それはこの脾の統血作用の低下が起こっていると考えることができます。

肺と血

心によって全身に運ばれた血は肺に一度集まり、宣発(せんぱつ)作用によって、スプリンクラーのように身体のすみずみまで散布されます。

血自体は心が統括していますが、血の運行は気の推動(すいどう)作用によって全身へと調節して運ばれます。気の運行は肺の呼吸機能によって調節されるため、血液の運行には心だけではなく肺も関わっています。

また血は、気化作用によって営気と津液からつくられます。津液だけでは陰性で冷たいものですが、陽気で温めることによって赤さを持ち、血となります。この陽気には、営気、心が持つ陽性の力である心火、肺が取り込んだ天の気である陽性の気の肺気が関わっているとされています。そのため血の生成にも肺の呼吸の機能は関係しています。

腎と血

腎に納まる精と肝に納まる血は『精血同源(せいけつどうげん)』といって、気化作用によってお互いが精と血に変化しあっています。

肝に貯えられる血が充実していれば、気化作用によって血は精に変化して腎に貯えられます。反対に腎精が十分であれば肝が養われて肝血も充実します。しかしなにかしらの原因で血が不足すると、営気と津液からだけではなく、腎精からも血をつくり身体の機能を正常化させます。

気と血の関り

血は気から作られます。そして気の推動作用で押し流されることによって、血は全身を巡ることができています。このことを『気為血之帥“気は血の師(リーダー)”』といいます。

また、気は血が全身を巡っているところに乗って、一緒に全身を巡行します。血の営養作用によって臓腑は気をつくることができ、機能しています。これを『血為気之母“血は気の母”』といいます。

このことから漢方医学では、陰陽の観点からも気と血をセットにして見ます。からだを温める気は陽、身体を潤す血は陰として分類します。

気と血は人体を正常に活動させる際に切っても切れない関係性で身体の中で働いています。

『血』の働きのまとめ

血は気、津液とともに生命活動を維持するための大切な基本物質です。

血が充実して身体のすみずみまで巡っていれば、皮膚の血色は良く艶があり、髪の毛もツヤやまとまりがあり白髪も少なく抜け毛や切れ毛に悩むこともありません。爪も頑丈で、筋肉にしなやかさがあります。目や筋肉が円滑に動くのも血が栄養しているからです。

血が過不足なく巡っている状態というのは、メンタル的にも安定した状態となります。頭脳も明晰で、頭の回転が速く物覚えも良くなります。頭に血がのぼったようなバランスを崩した状態ではなく、心身ともに落ち着いた状態になります。

血は身体中を潤して栄養することによって、身体の各部位を正しく運動させ、精神的にも余裕の状態を保ちます。

薬膳や漢方に興味がある人は瘀血(おけつ)という言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

瘀血もこの血がなんらかの原因によって巡りが悪くなってしまったことによって現れる状態です。特に瘀血は女性の婦人科系の問題や、美容面でも大きな影響を与えます。

次回は、この血がもたらす身体の不調について深掘りしていきます。

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