札幌の漢方専門なつめ薬局です。
高齢化が進んでいくなかで、認知症患者も増えつづけています。
軽度認知症を含めると65歳以上である高齢者の4人に1人が認知症または予備軍という調査もあります。
認知症は、とても身近なものではないでしょうか。
認知症は、患者さん本人だけでなく介護をする家族にとっても大きな問題です。
認知症にはどのような種類があるのか、また病院での治療や漢方にできることをご紹介します。
【認知症とは病名ではなく状態のこと】
認知症とは特定の病気の名前ではなく、何かの病気が原因で起こる症状や状態をまとめて表したよび方です。
年齢を重ねると誰でももの忘れをするようになりますが、認知症は単なる脳の老化ではありません。
認知症では脳の神経機能が破壊され、症状は進行していきます。
単なるもの忘れとちがって、判断力が低下したり日常生活に支障をきたしたりするのが特徴です。
認知症はさまざまな病気が原因となっていますが、「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「血管性認知症」が三大認知症とよばれており、この3つで認知症全体の約85%を占めています。
認知症の症状は、「認知機能障害」「BPSD(行動・心理症状)」「身体面の症状」の大きく3つに分けられます。
認知機能障害は、脳の神経機能が壊れることで直接的に起こる症状です。
具体的には、「同じことを何度も言ったりしたりする」「食事をしたことを忘れる」「日付・昼夜・場所・家族がわからない」「ものがゆがんで見える」「食事を作れなくなる」「かんたんな計算ができない」などです。
BPSDは、以前は周辺症状や問題行動とよばれていました。
お金や物を盗まれたと思い込む「もの盗られ妄想」や、あちこち歩きまわる「徘徊」、実際には見えないものが見えてしまう「幻視」のほか、失禁、抑うつ症状、睡眠障害、暴言暴力などが含まれます。
BPSDは、患者さん本人だけでなく家族や介護する側にとっても、大変で疲れてしまうものです。
経験したことのある方であれば、認知症の看護・介護をする大変さの大きな理由であることが実感できるでしょう。
身体面の症状は、認知症の種類によって大きく異なります。
アルツハイマー型では、身体面の症状は進行するまでほぼありません。
レビー小体型では、筋肉のこわばりや体の小刻みな動きなどパーキンソン症状や、立ちくらみや異常発汗などの自律神経症状がみられることがあります。
血管性認知症は、脳梗塞や脳出血が原因です。
後遺症としての脳血管障害により、障害のある部分に応じて手足のまひや言語障害などが生じる可能性があります。
【認知症と治療】
認知症の治療は、その原因となる病気によって異なります。
正常水頭症や慢性硬膜下血腫などは、認知症の症状があっても治療によって治る可能性があるでしょう。
三大認知症は、残念ながら現在のところ認知機能を完全にもとに戻す方法はありません。
薬物療法やリハビリテーションにより、進行を遅らせたり症状を軽くしたりすることが治療目的です。
薬物療法では、認知機能の低下の症状を遅らせるための抗認知症薬や、BPSDに効く抗精神病薬・抗うつ薬・抗不安薬などを使用します。
リハビリテーションでは、脳の機能低下を抑える目的で計算や音読などが取り入れられています。
また、脳に刺激を与えるための、音楽療法、芸術療法、回想法(過去の記憶から人生をふり返る心理療法)なども、リハビリテーションのプログラムです。
認知症治療の主目的は進行を遅らせることですから、早くから治療をはじめれば、それだけ症状が進んでいない状態で薬の効果を得られます。
少しでも不安に感じることがあれば、早めに病院にいって調べてもらいましょう。
【認知症と漢方】
認知症では薬物治療やリハビリテーションと同様に、家族など日常的に身近な人々とのかかわり方も重要といわれています。
しかし、BPSDが強く出ている方に対して、頭ではわかっていても、ついイライラしてしまったり声を荒げてしまったりすることもあるのではないでしょうか。
また、認知症では、便秘や不眠、食欲不振、排尿障害、不安など、心身両面においてさまざまな症状が出ます。
西洋薬では、これらの症状について1つ1つ対処しなければなりません。
現在問題になっている多剤服用の原因です。
BPSDに対して処方される抗精神病薬や抗うつ剤などの西洋薬は、怒りや興奮を抑えるだけでなく全身の身体活動を鈍くさせ、結果として日常生活の動作が低下してしまうものもあります。
最近では、認知症治療で使用する西洋医学の薬が、認知症を悪化させるという報告も挙がり始めています。
詳細は、今後さらに研究されると思いますが、現時点でも、西洋医学の薬は、副作用の問題もあり、認知症の問題点をクリアできる薬とは言い難い状況と言えます。
一方で、漢方薬によって認知機能やBPSDが改善、効果があるという報告があります。
この報告があって以降、病院でも、認知症治療で漢方薬を処方されるケースが増えていきました。
一般的な病院で漢方薬が処方される場合、「認知症であれば、この漢方薬」というように、西洋医学の病名や表に出ている症状で漢方薬の種類が決まることがほとんどです。
しかし本来、漢方薬はある症状が表に出てくるまでに体の中で抱えていた問題に対応して使い分けていきます。
認知症は脳の機能低下により起こる症状ですが、漢方では脳だけの問題とは考えません。
腎・脾・肝のバランスが崩れ、全身が腎精虚・脾気虚・肝気鬱とよばれる状態になることで、最終的な影響として脳の機能が低下すると考えます。
腎・脾・肝は、肺・心と合わせて五臓とよばれる漢方での内蔵(機能)の考え方です。
脳が正常な働きをするには、全身の働きと関連しています。
しかし、腎・脾・肝のどこが悪くなっているか、また、何が原因で悪くなっているかは、患者さん1人1人によって異なります。
そこをしっかりと見極めることが、漢方治療ではとても大切なのです。
患者さんごとにバランスが崩れている原因を分析して、それに応じた漢方薬を取り入れることで根本からカラダ全体を整えていきます。
漢方では表面に出ている症状を薬で抑え込むわけではないので、ずっとボーっとしてしまうなど日常生活への支障を与えることなく、BPSDの症状の改善が期待できます。
また、おおもとの原因に働きかけるので、それぞれの症状に対応するために多くの薬を飲む必要もありません。
日常生活で問題となる行動や心理状態が落ち着けば、患者さん本人も安心できますし、介護する家族にとっても負担を軽減できます。
土台となるカラダのバランスが整えて、さまざまな症状の改善を目指しましょう。
関連する記事: