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漢方の基本的な診察方法「四診」について~前編~

漢方の基本的な診察方法「四診」について~前編~

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前回は漢方で治療を行う際の基本的なルールである治療原則についてお伝えしました。

 

ですが、実際に治療するためにはまず『証(しょう)』という漢方における診断名のようなものを立てるために “診察”をしなくてはいけません。

 

東洋医学の診察は,、西洋医学のように血液検査やレントゲンなどの道具を用いるのではなく、視覚、聴覚、嗅覚、触覚などの五感を活用します。そのため深い経験だけではなく、細心の注意をはらって集中して証を立て、治療法を決定します。

 

この治療方針を決定するために必要な4つの診察方法を、まとめて『四診(ししん)』といいます。

 

実はこの四診、一部は医学的知識がない人でも普段から何気なく行っている方法だったりするのですよ。

 

今回は東洋医学独自の診断方法である実は身近な四診について、前後編に分けてお伝えしていきます。

 

 

四診について

漢方的診断には、病人に問うことから、脈や呼吸、発声などを観察することまで様々な方法があります。

中医学の古典の医学書【難経(なんぎょう)・六十一難】において四分類され、『望診(ぼうしん)』『聞診(ぶんしん)』『問診(もんしん)』『切診(せっしん)』をまとめて四診法と呼ぶようになりました。

 

四診のなかには習得が難しく現代ではほとんど行われていない診断方法もありますが、身近なものでは、例えば顔色をみることは望診のひとつです。

顔色が良い悪いということで健康状態を判断することは、特別な訓練をしなくても日常的に行っていることですが、より専門性を高めると診断能力がつくようになるのです。

 

このように東洋医学は数値ではなく、コミュニケーションが非常に重要な診断方法となります。

 

 

視覚を通して病態を診察する望診について

病人の顔色や形態の変化をみて、その内部変化を観察し、疾病の性質や完治後のからだの状態を判定する診法です。

どこを“視る”のか、具体的にあげていきます。

 

  1. 神気

神気とは、五臓の中で気血水を過不足なく巡らせ臓腑や経絡を機能させて、生命活動が正しく健康的に送れるようにコントロールしている身体の根本的なエネルギーとなる気のことです。

気血の盛衰は、私たちが見て確認することができる皮膚の色や光沢に現れます。皮膚の色が良く艶があれば、気血が充実し神気も十分にあると判断できるので、治療効果も現れやすく、これから病気が良くなる可能性の高い予後良好な状態だといえます。

皮膚の色艶が衰えていれば、気血が不十分で神気というエネルギーがないので、治療は長引いたり、場合によっては治らない予後不良な状態となります。

 

  1. 色<五色>をみる

健康的な肌の色は白絹を朱で包んだような、ほんのり紅く艶がある状態だと【黄帝内経素問:五臓生成篇】では説いています。

そのうえで、五行論に基づいて春であれば青色、夏ならやや赤色と季節に応じた色調になり、肌に光沢があって明るく潤っていれば治療後の予後も良いとされています。

ですが、病人の場合は皮膚の色が青赤黄白黒の五色でもきれいではない淀んだ色の1つに偏り、その色と関係する臓が病んでいると診断します。また、光沢がなく艶もない場合は、治療しても完治しない予後不良=死につながると診断します。

 

  1. 形態をみる

筋・血脈・肌肉・皮毛・骨といった五主や、眼・舌・口・鼻・耳の五官は機能面からも診断します。例えば骨の太さや細さ、肌のキメの細やかさ粗さ、厚さ薄さといった外側から見ることができる状態や形状から、関連する五臓の状態を診ることができます。

 

  1. 動態をみる

姿勢や動作が普通でなければ、どこかが病んでいるとみます。際立って特異な動作や姿勢の場合は、かなり重篤な病状だと判断します。

例えば腰は腎の府ですが、腰が曲がっていたり安定していない場合は、腎の不調だと推察します。

 

  1. 皮膚の色の変化をみる

「2,色<五色>をみる」でも説明した通り、皮膚の色や顔色が五色のうちの1つに偏っているときは、その五色から関係する五臓が病んでいるとみます。

また、顔や病の場所の皮膚の色が青ければ痛、黒ければ痺、黄赤であれば熱、白ければ寒というように、病状を判定することもできます。

 

  1. 経脈流注上をみる

例えばシミやそばかす、いぼ、皮膚のキメなどが、特定の経絡(五臓から流れるツボとツボを結ぶ気血の通り道)に病態として現れることがあります。皮膚の弾力などによっても、その経絡が充実しているのか虚しているのかを判断することができます。

 

  1. 顔面を部分的にみる

顔面の各部位に五臓を配当して、その部位に現れた色変などによって臓腑や器官に病変があるかを診断するものです。例えば脾に熱病がある場合、鼻先が赤くなります。

 

  1. 舌をみる

健康な舌は、萎縮や腫れ、こわばりや歪みもなく、舌表面が割れているような裂紋もない状態です。

色は淡紅色であれば気血が適切にめぐっていることがわかり、舌の中央に薄い白い苔があり、適度に潤っています。

舌は、気血の生成や病邪の性質、病位の深さ、病状の進展状況を反映していて、診断の際にはこまかく観察する大切なポイントです。

 

 

聴覚・嗅覚を通じて病態を診察する聞診について

呼吸音や発声、発語、口臭、体臭などを観察して、気血の盛衰や臓腑経絡との関連をみます。

どのように聞いたり嗅いだりするか具体的にあげていきます。

 

  1. 呼吸と声音をきく

健康な人の呼吸はゆったりとして深く雑音がありません。不調がある場合は、特徴的な呼吸になります。しゃっくりやくしゃみ、いびきも聞診でみていきます。

声音とは、のどや口を通って出てくる声以外、あるいは声を伴うような音のことをいいます。例えば、げっぷのことは噯気(あいき)といい、消化不良の際に起こるものですが、そうでない場合は脾胃や肝の働きが悪いときにみられます。あくびは呵欠(かけつ)ともいい、寒邪におかされた時や、疲労により腎が病んだ時に出ます。

なにげなく日々普通に起こる生理現象ですが、それぞれにれっきとした意味があり、診断の基準となります。

 

  1. 発声と発語をみる

健康的な人の声は、発声が自然でなめらか、音調も艶があり伸びやかです。声のボリュームや、濁音交じりの発声、独り言なども聴診で診察します。

例えば声が大きく重く、濁った発声をしている人は実証であり、逆に声が小さく軽く清い場合は虚証であると診ます。

 

  1. 異常音をきく

これはからだから鳴る音を聞きます。

例えば、お腹を叩いたりジャンプしたりして揺らしたときに、お腹の中からポチャポチャという音(振水音)があれば、胃内に水分が溜まっている状態だと分かります。

お腹が空いてもいないのにゴロゴロいったりする音を腹中雷鳴といい、腸の冷えがあると判断します。

 

  1. 匂いをきく(嗅ぐ)

体臭や口臭、脇の匂い、大便や小便の匂い、おりものなどの匂いから、その質によって病状を診断します。

一般的に悪臭があるものは熱証か実証、生臭い匂いは虚証か冷証とされています。

 

  1. 五声

病気の勢いがあるときや、高熱を発しているとき、影響を受けた臓器によって特徴的な発声をすることがあります。それぞれ、肝心脾肺腎は呼笑歌哭呻の五声が反映されています。

例えば肝=呼の場合だと、人をむやみに呼んだり大きな声を出したり、病気などの苦痛を強く訴えるなどするようになります。

 

  1. 五音

声の調子がどの音階に属するかによって、五臓の状態を診断します。

絶対音感が必要で相当な訓練を行わないと診察が難しい方法ですが、例えば弱々しい力のこもらないハヒフヘホやマミムメモの唇の形で、羽のような“ラ”の調子の発音の場合、腎の病状を診察します。

 

 

 

今回は四診のうち、「見て診断する望診」と「聞くこと嗅ぐことによって診断する聞診」についてお話しました。

 

「今日、顔色が悪いね」「腰の調子が悪そう」などは、とくに意識をしていなくてもコミュニケーションとして普段から身近な人に伝えることだと思います。

 

実は私たちはすでに四診の一部を身につけているのです。東洋医学がとても馴染みのあるものだということが分かりますね。

 

次回は残り2つの四診についてお話ししていきます。診断方法のポイントを知り、身体のケアに役立ててくださいね。

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