肝・胆の不調による病症

五臓六腑は、身体を働かせるためのエネルギーとなる気血津液を作り出し運行させることによって、私たちの心身を正常に機能させています。

虚実がある状態や巡りが悪くなるようなアンバランスな状態になると、身体に様々な影響が出て、それが不調や病的な症状として現れてしまいます。

今回は肝・胆のバランスが崩れた時の病症名や、その不調の特徴について詳しく説明していきます。

疏泄と蔵血を主る肝の病症について

肝は気血津液の流れを円滑に行わせる働きである「疏泄(そせつ)」と、血液の貯蔵庫的な役割である「蔵血(ぞうけつ)」という生理的な機能をもっています。

肝の働きが低下して疏泄が悪くなると、身体を巡る気の調節や、脾胃の運化作用の調節、情動の調節に影響が現れます。蔵血が悪くなると、肝の支配する目や筋肉に影響が現れます。
また女性の場合では、血のめぐりが大きく関わる月経にも肝の状態が反映されます。

肝の病の主な原因は「七情」の「怒」という感情です。

怒りすぎたりイライラしすぎると肝を傷つけて、また逆に肝が弱ると怒りやすくなったりイライラ感が強くなります。

また肝の季節は春なので、2月~4月頃に肝の不調が特に現れやすい傾向にあります。

例えば春に頭痛やめまい、ドライアイや目の充血、イライラを感じる人が増えるのは、実はこれから詳しく解説する肝の代表的な病症が現れているためなのです。

肝気鬱結

肝気鬱結(かんきうっけつ)とは、肝の疏泄作用が低下して起こる肝の実証の病症です。

特に精神的なストレスが強かったり長期間にわたって気持ちが落ち込んでいたりすると肝気鬱結になり、気が巡らなくなって気鬱(きうつ)や気滞(きたい)も引き起こすことで精神状態に影響し悪循環になります。

主に精神抑鬱、怒りっぽい、みぞおちから胸や脇にかけて膨張し苦しい状態となる胸脇苦満(きょうきょうくまん)、月経異常、のどに梅の種が詰まったような閉塞感を感じる梅核気(ばいかくき)などの症状が現れやすくなります。

肝火上炎

肝気の鬱滞が長期間にわたって続くと熱が生じ、やがて火になります。

肝火上炎(かんかじょうえん)とは、火や炎が上へ上へと昇る性質があるように、からだの中でも上半身に強い病症が現れることが特徴の実証です。

主な症状としては強いイライラ感、怒りっぽい、強い頭痛、目の充血、耳鳴り、口の中が苦い、不眠、夢をたくさんみる、胸苦しさなどがあり、興奮しているような状態となります。

お酒やタバコ、辛い食べ物など刺激の強いものを過剰に食べたときにも起こります。

肝陰虚

肝陰虚(かんいんきょ)とは、肝の陰液が不足したときに、滋養・滋潤作用(潤して栄養する働き)が低下することによって起こる虚熱病です。

陰液には身体がもつ熱を適度に潤しクールダウンさせる役割があります。
この働きが低下すると、相対的に熱の割合が増えてしまい、身体に熱を帯びるようになります。

この肝陰虚は肝の症状と陰虚の症状が同時に現れることが特徴です。
目が乾燥してゴロゴロするような痛みや、脇が痛い、手足の筋肉がひきつる、全身のほてり感、強い寝汗、口やのどの強い渇き、耳鳴り、めまいなどの病症が現れます。

肝陽上亢(かんようじょうこう)

肝の陽気が過剰になることで起こる病症です。

その原因は肝鬱が強くなりすぎることによって虚熱が発生した肝陰虚、腎の働きが低下することによって津液の調整が上手にできなくなり腎陰虚になるといった肝腎の陰虚が背景にあります。

からだ全体のバランスが崩れ、肝の陽気を抑えることができなくなることによって起こり、特に上半身に症状が出ます。
めまい、頭痛、耳鳴り、目の充血、強いイライラ感、怒りっぽい、腰やひざがだるく力が入らない、肝の経絡上に痛みなどの病症が現れます。

肝血虚

肝血虚(かんけっきょ)とは、血が十分に作られなかったり、過度な出血や慢性的な病によって肝血を消耗していたりすることが原因となり、肝の疏泄と蔵血の生理作用が低下して、肝胆の臓腑や関連する組織、器官の機能失調の症状が現れます。

特に筋、目、経絡の衝脈・任脈、心は肝血と密接な関係があり、肝血虚によって滋養できないと不調が強く現れます。

主に目の渇きやかすみ目、脇の痛み、めまい、不眠、夢をたくさんみる、四肢のふるえ、筋肉のひきつり、顔色はくすんだ黄色、くちびるは淡白な色、経血量が少なく経血も薄くなり、閉経につながる場合もあります。

肝風内動

肝風内動(かんふうないどう)とは、肝腎の極度な陰虚によって陽気のバランスを著しく崩したとき、また血の不足によって筋肉の栄養不良、過度な肝陽の亢進によって起こります。

主にめまい、ふらつき、ふるえ、しびれ、痙攣、言語障害、歩行不正、半身不随、口や舌が歪んだり強張ってうまくしゃべれなかったりなどの症状が現れます。

原因によって肝陽が過度になったものを「肝陽化風」、発熱が続いたことによって陰液が消耗した状態を「熱極生風」、肝血虚と一緒に現れる「血虚生風」と呼びます。

これらは、現代の医学では脳動脈硬化症、高血圧性脳症、脳卒中、熱性ケイレンと呼ばれるような中枢神経の興奮や、脳血管の収縮によるものだと考えられています。

胆汁を貯蔵して消化吸収を助ける胆の病症について

胆は胆汁を貯蔵して流し、脾胃の消化吸収の働きを助けます。

胆のこの生理作用は肝の疏泄作用によって調節されています。
そのため胆の働きが低下して疏泄作用が低下すると胆汁の排泄、貯蔵に障害が起こりやすくなります。
また、中焦といって横隔膜からお臍の間にある機能に湿熱があっても同じように、肝胆に影響が出ます。

この胆汁の排泄が順調に行われないと、悪心という吐き気や嘔吐、口が苦いといった病症が現れます。
また、胆汁があふれると黄疸が現れます。

さらに胆は決断力や勇気に関わるので、胆の気が虚すると不安感が強くなったり、驚きやすくなったりします。

肝胆の働きの低下によって起こる不調のまとめ

肝の疏泄作用、蔵血作用、胆の胆汁を貯蔵して脾胃の消化吸収を助ける働きが低下すると、腎や心、脾胃にも影響があり、主に下記のような症状が現れやすくなります。

  • 筋肉の強いこりやつり
  • 目の充血やドライアイ、異物感
  • イライラ感やカッと怒りが頭に昇りやすい
  • 落ち込みやすく鬱っぽくなる
  • めまい感、ふらつき
  • 頭痛
  • 耳鳴り
  • 胸脇苦満(みぞおちや脇のつまりや痛み)
  • 不眠
  • 月経異常
  • 悪心嘔吐

肝は気持ちよく伸びやかに気血を巡らせて、全身の血の調節や貯蔵することで円滑に働きます。

これが何らかの原因でうまくいかなくなると、虚実によってその症状には違いが現れますが、気が滞り精神的に抑うつ傾向になり、イライラして怒りっぽく、脾胃の不調をもたらします。

例えば、強いストレスがあると胃が痛くなったりするのは、この肝胆の働きが低下するためであると説明できます。

このように私たちの身体が抱える不調には必ず原因や、その根本となる五臓六腑の機能があります。

この原因を探りどの臓腑が弱っているのかを分かれば、漢方や薬膳、日々のセルフケアなどで解決する糸口を見つけることができるようになります。

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