漢方の基本「整体観念」から身体を整える秘訣を知る

「整体」ってなに?

と聞かれたらみなさんはどのように答えますか?

マッサージのようにほぐしたり、ボキボキと骨格を矯正したりすることを多くの方が思い浮かべるのではないでしょうか。

現代の日本ではそれも間違いではないのですが、漢方的な本当の意味は別にあります。

今回は「整体」の正しい意味とその重要性、そして私たちの身体の内側にある五臓六腑との関係性をお話しいたします。

中医学の基本的特徴「整体観念」とは

「整体観念」とは、漢方や東洋医学に携わる際には、常に念頭に置いておかなくてはならない大切なキーワードです。

まず中医学のはじまりは、物事には裏表の側面があるとする「陰陽論」や、自然界に存在するものを5つの性質に分類した「五行論」など、中国古代の哲学にあります。
それは医学に応用・理論化され、長い歴史の中で集大成されました。
その特徴が「弁証論治」と「整体観念」です。

「弁証論治」は、症状を鑑別して具体的な治療方法を検討し行うことですが、詳細についてはまた別の機会にお伝えします。

「整体観念」とは、人と自然は統一的であることをいいます。
人は絶えず自然との関わりの中で生活し、自然が人体にさまざまな生理的、病理的な変化をもたらします。
環境の移ろいに応じた働きを人体がするということです。

さらに五臓六腑などの器官はそれぞれの全く異なる機能をしているにも関わらず、互いに協調しながらからだを形作る働きをしています。

私たちが普段何気なく日々を過ごしていても、身体はオートマチックに自然界の変化に柔軟に対応し、身体の内側で上手に連携を取ってくれているのです。
だからこそ、自然界に逆行することなく、自然に寄り添って養生することが、身体をケアする重要な指針となります。

五季によってあらわれる五臓の変化

私たちの暮らす日本には四季があり、その時々で気温や湿度など明確に環境が変わります。
この自然界の移ろいに身体も影響を受けています。

五行論の考えから季節も木・火・土・金・水に対して春・夏・長夏・秋、冬と5つに分類し、それを五季と呼びます。そしてそれぞれに五臓の肝・心・脾・肺・腎が配当されます。

【 木 / 春 】

春は肝の季節です。

肝の働きは“疏泄を主る”といい、“巡り”に大きく関わります。

滞りなく、流れが良ければ気も順調にめぐり、精神ものびやかで葛藤もなく、胆汁の分泌も良く、脾胃の消化機能を助けます。

反対に肝の働きが低下し滞りがあると気も巡らず、精神も抑うつ状態になり、イライラして怒りっぽくなり、消化を行う脾胃に不調が連鎖します。

また血流、筋肉、爪、目などに関わるので、上手く巡らすことができなくなると寝つきの悪さや、筋肉のつりやこり、爪の変形、充血や疲れ目、クマといった不調が現れやすくなります。

【 火 / 夏 】

夏は心の季節です。

心は五臓六腑を統括する最高責任者の役割を持ちます。

そして“血脈を主る”働きがあります。

心がしっかり働くことができていれば、脈拍も規則正しく力強くあり、血の巡りも円滑になります。

反対に心の機能が損なわれると、脈拍に異常が現れ血の巡りも悪くなります。

また顔の色艶や舌、汗などに関わるので、心の不調があると顔の血色が悪くツヤがなくなり、舌の働きが鈍くなるため言葉をうまく発することができなかったり、味覚に異常を感じたりすることもあります。

夏の暑い日にもかかわらず汗が出なかったり、反対にむやみに汗がでたりするような不調が現れやすくなります。

【 土 / 長夏 】

長夏とは、東洋医学では夏と秋の間の湿度の高い季節のことで、日本では梅雨の時期に当たります。

長夏は脾の季節です。

脾は“運化・昇清・統血を主る”働きを持ちます。

これらの機能が正しく働いていれば、消化吸収がうまくいき全身に栄養を送り出す元となり身体の上部に気や血を行き渡らせ、臓腑や器官を元の場所に繋ぎ止め、血が脈外に漏れ出ず順調に巡らせます。

反対に3つの働きが損なわれると、消化吸収の異常や、津液という身体を潤す水の停滞、内臓下垂や全身倦怠感、慢性的に下しやすくなることがあります。

また、血が漏れ出やすくなるということは出血傾向にあるので、不正出血なども起こりやすくなります。

女性の場合、梅雨時期前後に不正出血があったり、経血量がいつもより多くなったりするのも、この統血の力がうまく発揮できなくなるからなのです。

そのほかにも、肌肉といって筋肉と皮膚の間の層に関わるため、脾の不調が夏の影響を受けると、たるみやすくなったり、不自然に痩せたり、食欲が異常になったり、腕や足にだるさを感じたりするようになります。

また、唇に影響が現れるため、口周りの皮膚が荒れたりします。

むくみにも関係しており、湿邪という湿気の邪気に感応しやすくなります。

【 金 / 肺 】

秋は肺の季節です。

肺は“宣発・粛降を主る”働きをもちます。

この2つが正しく働くことによって、呼吸が可能となり、水と気をすみずみまで全身に散布します。

うまく働かないと、綺麗な空気を取り込んだり、逆に濁気を吐き出したりすることができなかったり、栄養できなくなってしまいます。

肺の働きが低下すると咳などの呼吸の異常があらわれやすくなります。
秋にひく風邪は空咳が出るような喉から症状があらわれることが多くなります。

また発声に異常が現れたり、肌(皮毛)に関わるため皮膚の乾燥や湿疹が現れやすくなったりします。

【 水 / 冬 】

冬は腎の季節です。

腎は“納気を主る”働きがあり、深い呼吸に関わります。

腎がうまく働いていると精を活性化し、元気に若々しくいられます。

反対に腎機能が弱くなると呼吸が浅くなったり、生まれつき持った生命力や脾胃の消化吸収によってつくられた栄養を貯めることができなくなり、冷えや老化に大きな影響が現れたりします。

腎は生命力の源となる精を貯蔵しているため成長や発育、生殖機能の働きと深い関係があります。

また、水分代謝、髪、骨、耳、二陰(小便口、大便口)等と関わるので、下半身のむくみ、婦人科系、骨が脆くなりやすい、白髪が出やすい、難聴や耳鳴り、頻尿、便秘といった不調が現れます。

寒い季節になるといつもよりお手洗いが近くなりやすいことがあるのは、冬という季節に腎の機能が影響を受けやすいためなのです。

必ずしも各季節に各臓の不調が現れるわけではないのですが、五季によって身体は大小の影響があることがわかります。

「整体観念」から考える漢方的な養生の極意

よく東洋医学の特徴を、「木を見て森をみず」ということわざを逆になぞらえて、「森をみる医学」だと例えることがあります。

1本の木だけを上手く育てるのではなく、どうしたらこの森全体が青々とし豊かに育つのか?を考える医学だということをあらわしています。

森全体を活性化させるためには、季節に応じて太陽の光がしっかり当たることや、綺麗な空気があり風通しが良いこと、水が行き渡りかつ澱まず水捌けが良いこと、そして豊かな土壌であることなど、環境がとても大切になります。

季節に応じ、新芽が出て、花が咲き、深い緑色の葉っぱから紅葉し、やがて落葉する。
落ちた葉が養分となりまた季節が巡って新芽が出てくる。
このように、1本の木だけを見るのではなく共生することが、全体的に元気な森を育むことへとつながりとなります。

これを身体に言い換えてみると、なにか一つの気になる悩みや不調だけを集中的にケアすることももちろん大切です。

ですが、全体的なケアとして、身体全体の繋がりや季節などの環境が身体に与える影響を考えることも必要です。

それが巡り巡って、結果的に自身が気になっていた不調の根本的な改善になります。

これが、「整体」という言葉の本当の意味なのです。

少し時間がかかることもありますが、漢方的な養生は「急がば回れ」です。
焦らず全体的に身体を整えるという考えが大事なことがわかります。

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