漢方の基本的な診察方法「四診」について~後編~

前回は東洋医学の診断方法である『四診(ししん)』の4つ診断法のうち、視覚を通して病態を診察する『望診(ぼうしん)』と、聴覚・嗅覚を通じて病態を診察する『聞診(ぶんしん)』についてお伝えしてきました。

今回は残りの2つの診断方法についてお話します。

東洋医学の診断には、血液検査やエコーなどがない分、コミュニケーションがとても大切な要素となりますが、そこにもしっかりと診断基準となるものが存在しています。

問いかけと応答によって病態を診察する問診について

悩みや不調のほか、いつから?原因は?既往歴は?など確認します。
また、困りごとと全く関係ないと思われる食事や住まい、お仕事、生活状況、性格的な特徴などの情報も集めます。

西洋医学と違い、東洋医学では内因・外因などにより臓腑や経絡に異常が起こり、患者が訴える痛みや悩み、不調や病気となります。

例えば腰痛も、どの臓腑や経絡に異常が起きたのか調べて診断し、臓腑や経絡に対して治療します。
そうすれば、総合的にからだの状態が整うため、主訴である腰痛も自然と治るという考え方をします。
そのため、漢方や鍼灸治療ではカウンセリングに時間がかかります。

  1. 寒熱を問う

寒熱とは悪寒発熱のことで、温めても寒気があるか、発熱があるかを確認します。

程度や時間などによってその原因も異なるので、悪寒発熱があるか?それは同時に出現するのか?それぞれなのか?などを尋ねます。

  1. 汗を問う

汗は五臓の心の液です。
からだを温めるパワーをもつ陽気が津液を温め、ヤカンから水蒸気が出るように体表から出たものが汗です。

汗の有無や汗が出る時間、その部位、汗の量などを確認します。

  1. 飲食を問う

のどが渇くか、水分を飲むか、空腹感はどうか、食欲はどういった状況か、味覚、味の偏食傾向があるかなどを尋ねて、臓腑や経絡、とくに脾胃の機能の状態を診ていきます。

  1. 二便を問う

東洋医学では、大便と小便を合わせて二便といい、その状態を観察することでも診断していきます。

大便は、きれいなバナナ型で力まずスルッと出ることが健康的だとされています。
主に大腸・脾・胃・小腸が関係しますが、他の五臓も関わり津液による水分代謝が悪くなると大便の異常が起こることも多くあります。

小便は、腎(膀胱)・脾・肺と深い関係があります。
量も回数も多すぎず少なすぎずという状態が健康的です。
出るときに痛みがあるか、その色はどうかなど問います。
色が薄く清いものは寒証に見られ、色が濃いものは熱証に多くみられます。

  1. 疼痛を問う

痛みは自覚症状として分かりやすいものなので、主訴となることが多い感覚です。
痛みの部位や、痛みの性質などを確認します。

身体の各部位はすべて一定の臓腑や経絡と連絡しているので、どこが痛いのかを知ることによって、からだの内側の状態を推測することができます。

また、痛みを引き起こす病因が違うと痛みの性質も変わります。
例えば、マッサージのように押すと楽になるのか?逆に痛みが増すのか?、温めると痛みが楽になるのか?冷やすと楽になるのか?といった感覚や、鈍痛なのか?刺すような鋭い痛みなのか?などを尋ねることで、病気の原因を探し出すことができます。

  1. 月経を問う

男性と異なり女性には月経、おりもの、妊娠、出産などの生理現象があります。
そのため、既婚か未婚か、妊娠の可能性、出産経験があるかなどを尋ねる必要があります。

月経は周期や日数、経血量や色、質、月経に伴う症状や現在は周期的にどのタイミングなのかを確認します。

  1. 睡眠を問う

寝つきや睡眠の質、夢、ひどい眠気などからも、からだの内側の状態を診察することができます。

不眠には入眠障害と熟眠障害があります。
動悸や不安感を伴う不眠、夢をたくさんみることや消化不良で起こる不眠など、五臓の状態によって睡眠の質も変わります。

また、ひどい眠気や知らぬ間に寝てしまっていることを嗜眠といいます。
これは冷えや水分代謝の異常などの病状によくみられます。

  1. 五主を問う

五主とは、肝心脾肺腎にそれぞれ配当される筋・血脈・肌肉・皮毛・骨のことです。
望診でも見た目から判断しますが、五主の状態から五臓の状態を診察します。

例えば肝の機能が阻害されていると筋肉に炎症が起きやすくなり、コリやハリ、足がつりやすいといった影響が現れやすくなります。

  1. 五液(体液の異常)を問う

五液とは、涙・汗・涎(よだれ)・涕(はなみず)・唾(だえき)のことで、それぞれ五官の眼・舌・口・鼻・耳によって外部に排出されるような状態となっています。
五臓の影響を受けると五官から出る五液にも異常が現れます。

  1. 五労(過労の原因)を問う

程よい運動は五臓やからだの働きを高めますが、行き過ぎると過労となります。
とくに、肝は久行、心は久視、脾は久坐、肺は久臥、腎は久立の運動と深い関係があります。例えば歩きすぎると肝の働きを損ない、また逆に肝の機能が低下すると長く歩くことができなくなります。

手で触った触覚を通じて病態を診察する切診について

現代医学の触診に相当する診察方法です。

切診は脈診、腹診、切経に分けられ、それぞれいくつかの診断法があります。

  1. 脈診

春秋戦国時代からある診断方法です。

手首の脈に触れ、脈の数や拍動、強弱など脈の状態をみて、臓腑や経絡の異常を診断します。

さまざまな種類がありますが、例えば健康で無病な人の脈は一呼吸に4回か5回拍動し、特に強い弱いといった特徴がありません(平脈)。これを元に異常がないか診察を行っていきます。

西洋医学では脈は主に心拍数をみるだけの部分ですが、東洋医学では、脈の性状によって病因を推察したり、病気の度合い、治療後の体調についてなどの判断をしたり、鍼灸治療の場合はもっとも重要視して、治療方法を選定していきます。

  1. 腹診

仰向けになって足を伸ばして、手のひらや指先で胸からお腹の皮膚や皮下の組織を軽く触れて診察します。

健康的な人のお腹は、腹部全体が温かく、適度な潤いがあり、硬すぎず柔らかすぎず、つきたてのおモチのような触り心地になります。
また、上腹部は平らでへそ下は少しふっくらとして、少し押したときに弾力として手ごたえを感じる状態がいいとされています。

患者のお腹に向かってお臍の右側が肝、臍上が心、臍が脾、左側が肺、へそ下が腎と五臓が配当されています。
該当の場所に痛みがあったり、押すと固かったり痛い場合は、その五臓の状態をみるなど、さまざまな方法があります。

腹診は中国より日本の漢方治療の歴史のなかで発展し、重視されてきたといわれています。
日本では江戸時代より大切にされてきた診断方法です。

  1. 切経

切経とは経絡を切診することです。

経絡というからだに流れる気血が運行する通路が、からだには12本あると東洋医学では考えます。
この経絡をそれぞれ指や手のひらで触り、皮膚や筋肉の状態から臓腑やその経絡を診察し治療します。

例えば触って痛がったり、硬結といってコリのような塊があったり、押して跳ね返す弾力性がないかなどを確認します。
一般的に静脈瘤と呼ばれるような皮下で静脈がふくれたものや、蜘蛛の巣のように静脈が青紫色に浮き上がってみえていたりするものが経絡上にある場合は、診断の材料となります。

西洋医学と東洋医学における「診断」の違い

ここまで前後編にわけて、四診という東洋医学独自の診断方法についてお伝えしてきました。

普段私たちが認識している「診断」という言葉自体、西洋医学と東洋医学では違いがあります。

西洋医学における診断は、医師が患者を診察し、その病状を判断し病名を決定することです。
東洋医学における診断は、治療方針の決定です。

西洋医学は病気の原因を明らかにすることが診察の目的なので、例えば難病や、新型の感染症のように、原因が分かってもまだ治療法が確立していないということも起こり得ます。

東洋医学の場合は、長い歴史の中で先に治療法が研究開発され、後から病気の原因を考えてきたという背景があります。
そのため東洋医学における「診断」の目的は、不調や病気の原因を追究することと、どの治療方法を選択するかの2点なので、治療方法がないということは起こりません。

その分、四診による診察を慎重に行う必要があるため、漢方や鍼灸治療ではカウンセリングに時間がかかることがしばしばあります。

ですが、丁寧な四診を行うと、未病や原因不明の不調に対して正しい診察と治療方法を見つけることができます。

東洋医学の四診は前編でもお伝えしたようにコミュニケーションが大切な診断方法です。
日常的にご自身やご家族の体調を気遣うことも、四診の1つです。

プロではなくても、少しの知識を持つことによって体調や不調の原因を知ることができるので、日々の養生に役立てることができます。

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