東洋医学の内臓観~肝・胆について~

東洋医学では内臓を、からだを構成している単なる器官としてだけではなく、人体の生理的、病理的、精神的な活動の中心になるものとして考えています。

これを「蔵象(ぞうしょう)」と呼びます。

「蔵」は体内にしまわれている内臓、つまり五臓を指し、「象」は外に現れる生理的、病理的な現象を指します。

古代中国の人々は、解剖を通じて得た知識、人体に起きる生理的・病理的な現象の観察の集約、鍼灸や漢方を用いたときの医療効果の分析といった経験を積み重ねて基礎にし、蔵象という考え方を作り上げました。

紀元前200年頃につくられた東洋医学における最古の医学書である「黄帝内経素問霊枢」には、すでに人体の解剖をしていたとみられる記述があります。これは世界的にみても当時最先端の研究でした。

そして、臓腑はからだを働かせるエネルギーとなる気血津液をつくり、その運行を担っていて、巡りが悪く虚実がある等の状態になると、身体にさまざまな影響が出て、病的な症状が現れると結論づけました。
それは今日まで東洋医学の指針となっています。

今回から5回に分けて、この蔵象論を1つずつ解説します。

1回目は「肝と胆」です。

五臓の肝の働きについて

肝は五行の木に配当され、胆と対になります。

疏泄を主る

肝はからだの“めぐり”にとても関係が深い五臓です。

疏泄(そせつ)とは肝がもつ気血の流れを円滑に、また伸びやかにすることを指し、巡らせる役割をもちます。

疏泄にはすみずみまでいきわたらせる「舒展(じょてん)」と、円滑で淀みがない「通暢(つうちょう)」という2つの意味があります。

肝の気が伸びやかであれば気血はすみずみまで順調にめぐり、精神も伸びやかで葛藤もなく、胆汁の分泌を円滑に行い脾胃の消化を助けます。

反対に疏泄の働きが低下すると、気血が滞り、精神的にも鬱っぽくふさぎ込んで、イライラして怒りやすくなります。また消化が上手にできなくなり脾胃の不調につながります。

蔵血作用

肝は血液の貯蔵庫としての役割をもちます。

夜に布団に入り横になると、やがて眠気に襲われ眠りにつきます。
これは身体をめぐっていた多くの血が肝に仕舞われ、脳にいく血流が少なくなるからです。

肝の働きが低下すると、この働きがうまくできなくなり、寝つきが悪かったり安眠ができなかったりします。

また、朝目を覚まして動き出すと、夜に肝に収納されていた血をすばやく全身に送りだします。
そして四肢の筋肉が力強く運動できるようになります。

判断力や計画性などの精神活動を主る

肝は「罷極(ひきょく)の本」や「将軍の官」と呼ばれます。

これは、からだの活動を円滑に行わせたり休息を指揮して疲れや不調に耐えたりする役割や、将軍のようにたくましく身体を指導することからついた名です。

肝がしっかりしていれば内外の変化に素早く反応して適切な行動がとれます。

筋を主る

肝は筋脈を適切に配分して、その運動を支配しています。

肝の働きが正常であれば、筋脈の運動機能は十分に発揮できますが、低下していると力がなくなったり、凝ったりひきつれたりして痛みが出ます。

また、筋肉の過度な疲労は肝に影響を与えます。

爪に反映される

東洋医学では爪は筋の余りだとされていて、筋とともに肝の状態をみることができます。
肝の働きが正常であれば、爪には弾力があり、艶があって健康的なピンク色になります。
肝の働きが低下すると爪の色つやは悪くなり、割れやすくなったり、スジが入ったり変形したりします。

目に開竅する

肝は目を通して外界とつながっています。
そのため、目はものを視るという機能に反映されます。
肝の働きが正常であれば目はよくものを識別して、衰えると見えにくくなったり目が疲れやすくなったりします。
また目を酷使すると肝の働きに影響が出ます。

液は涙

目と通じているので、肝の状態は涙にも反映されます。
肝の働きが良ければ涙で目を潤すことができますが、働きが悪くなると目が乾いたり、反対に涙が出すぎたりするようになります。

現代人はスマホやPCで目を酷使することが多いですが、実はこれは肝の働きを損なうことにつながります。
結果、ドライアイや、アイメイクが崩れやすいといったことにつながります。

五志は怒

肝の情動的な変化は「怒」という感情で現れます。
肝の働きが損なわれていると、怒りやすかったり、イライラ感がいつもより増したりします。

また、過度な「怒」という感情は肝を傷つけます。
激怒している人の目は血走っているようなイメージはありませんか?
これはカーっと血が頭に昇るような怒りに襲われ肝の働きが低下し、目に肝の状態が現れていると東洋医学的に説明することができます。

六腑の胆の働きについて

決断や勇気を主る

胆はからだの中心にあります。真ん中から落ち着いて他の臓腑の働きを観察して、適否の決断をする器官です。

心が落ち着いているからこそ、必要なときには勇気をもって大胆な行動もできます。
そして精神的なストレスにも耐えることができます。
胆の働きが弱いと、少しのことでビクビクし、ため息をつきやすい傾向があります。

精汁(胆汁)を蔵する

肝の余った気は胆に流れ、胆汁になります。
胆汁は比較的澄んでいてキレイで、精気を含むので「精汁」とも呼ばれ、腸や膀胱内にある飲食物のカスや排泄物とは異なります。

胆は肝における目のように外界とは直接的なつながりはありません。
また飲食物の消化や吸収に直接関与することもありませんが、精汁を流すことで脾胃の消化吸収の働きを助けています。

この働きが低下すると、飲食物が胃から逆流するため口が苦くなり、胃酸を吐くような嘔吐につながります。

奇恒の腑のひとつ

奇恒(きこう)の腑とは、東洋医学独自のからだの器官に関する考え方です。

そもそも腑とは中が空になる袋のような器官で、飲食物を受け入れて消化し次の器官に送る働きがあり、水分の吸収や配布、排泄に関わる胃、小腸、大腸、三焦、膀胱を指します。

それに対して、奇恒の腑は形こそ腑に似ていますが、性質や機能は臓に似ており、脳、髄、骨、脈、胆、女子胞を指します。

胆は唯一六腑にも奇恒の腑にも属している腑です。

胆は精汁の貯蔵と分泌を行っているので、中を空にして精や血を蔵さない腑の性質に反しています。
ですが、他の腑のように飲食物の運搬やエネルギーや老廃物に変化させる働きや排泄に直接関係はしないので、奇恒の腑のひとつとして数えられます。

肝胆の働きまとめ

肝胆は五行で分類すると「木」の性質で、季節は「春」と深い関りがあります。

「木」の特性は曲がったこととまっすぐなことという意味の「曲直(きょくちょく)」という言葉で、その性質を言い表します。

春は植物も幹や枝がぐねぐねと曲がりながらも、太陽へ向かって真っすぐグングンと伸びやかに成長します。
その様子に例えて、木は上に向かってしなやかに伸びる役割をもち、またそういった状態を好みます。
ですので、何かしらの原因でこの伸びやかさを損なうと肝の働きが低下し、様々な不調が現れてしまいます。

特に春に肝の不調は現れやすくなります。

例えば、冬が終わりだんだんと暖かくなってきた頃に、筋肉のこりやつっぱりを感じやすかったり、足がつりやすくなったり、目が充血したり、かすみ目やドライアイ、目の下のクマが急に気になることがあります。

これらはすべて、春という季節に影響を受けたり、なにかしらの原因で肝胆の働きが低下していたりすることによる不調です。

もし筋肉や目、爪に異常を感じたり、イライラをいつもより強く感じたりすることがあれば、肝胆の機能低下を疑ってみてください。

そうすることで、例えば、「肝血を補う食べ物を摂る」など、解決策が見つかりますよ。

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